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イヴァン、病む

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イヴァン、病む

 ※ご注意

 死にネタを扱っております。
 レイプ・グロテスクな描写が出てきます。苦手な方はご注意ください。


 設定
 アルフレッド…空飛び族。背中に羽が生えている。空を飛ぶ。死ぬ予定です。
 イヴァン…空飛び族に姉を殺され、妹を傷付けられてから空飛び族を憎んでいる。
 フランシス…イヴァンの友人。
 ナターリャ…イヴァンの妹。過去に負った傷のせいで両目が見えない。
 マシュー…アルフレッドの兄弟。空飛び族。


 年に数回、街に悪魔がやってくる。その悪魔は鋭い羽を動かして西から大空を飛んで東の山へやってくる。悪魔がやってきたら、街の人々は身を屈め、地面に頬がくっつくほど、姿勢を低くしなければならない。そうして、悪魔の群が飛びさるのをじっと待つのだ。そうしなければ、彼らの翼が、人々の肉を切り裂いてしまうだろう。悪魔は目の前に立ちはだかる障害物を次々に破壊する。彼らの羽はどんなに固い煉瓦の家ですらがれきの山にしてしまう。彼らの翼は強力だ。彼らが起こす風もまた人々を傷つけた。
 昼、街に悪魔がやってくることを知らせる警報が鳴った。そして、連絡人が声高に街を叫んで回った。
「奴らは夜に街に到着するぞ!」
 人々は食料と水とを持って、地下シェルターの中に隠れる。奴らが街を通り過ぎるまで、明日の朝まで人々は地下で過ごす。

「夜にやってくるの!?」
 目に包帯を巻いた髪の長い美しい金髪の少女は、連絡人の叫びを聞いて、震え上がった。
「兄さん、こわいですわ……私……。今は何時ですか? 夜は後何時間でやってくるのですか?」女性らしい細く、白い手を小刻みに震わせ、少女は椅子から転げ落ちながら叫んだ。
「大丈夫だよ、ナターリャ。怖がらなくても良いよ。まだお昼だ」少女の兄は、震える妹の肩を起こして、宥めるように言った。
「兄さん、そんなことを言ったって、兄さん! 私は目が見えないのよ! あいつらが来たってわからないの。うまく逃げられりゃしないわ。助けてください。兄さん。私、姉さんみたいになるのは嫌よ!」ナターリャは目に巻いた包帯を涙でびしょびしょに濡らし、必死になって叫んだ。そして、はっと気がついたように口を開けた。「ああ、思い出してしまった! 今まで思い出さないようにしていたのに、あいつらが来る日はいつも思い出してしまうわ。ああ、兄さん、今ね、私の目の前に、姉さんの姿が見えるの。あのときの瞬間の姿です! 恐ろしいですわ。ああ、嫌だわ、四肢が飛び散りました! 兄さん! 怖いわ! 何て酷いの! 血まみれよ! 嫌っ」
 ナターリャは床にふせって泣き出した。おぞましい想像から身を守るように頭を抱える。
「ナターリャ。地下に行こう。そしたら安心だ」
 兄のイヴァンはナターリャの腕を掴んだ。ナターリャは細い手をイヴァンの足に巻き付かせ、すがりついた。
「私、夢に見るんです。あいつらが私を追って、地下まで潜ってくるの。そして、兄さんを殺してしまうの。その後すぐに、私も……」
「そうならないように祈ろう」
「怖いわ……怖い……兄さん……!」
 少女の泣き声は地下に消えていった。

「イヴァン」荒々しく門戸を叩くと、彼は家主がドアを開ける前に、家に入ってきた。「準備をしろ」そう言ったのは、癖のついた金髪を肩までのばした顎髭の男で、フランシスという男だった。彼は背中に武器を担いでいる。
 イヴァンは地下からあがってきた所だった。フランシスの姿を見ると、浅く頷き、イヴァンは部屋の壁に掛けていたライフルを取る。
「妹ちゃんは?」フランシスは心配げにイヴァンに尋ねた。
「大丈夫だよ。地下で寝ているよ」イヴァンは表情を変えずに、少し笑みすらこぼして答えた。
「兄さあーん!」地下からナターリャの声が聞こえてくる。
 イヴァンは地下を振り返る。
「起きてるみたいだぞ」
「ごめん、ちょっと待っていてくれるかな」
 イヴァンはばつが悪そうに地下に戻っていった。
「兄さん! 兄さん!」
「ナターリャ」
「兄さん! どこ?」
「ここだよ」イヴァンはナターリャの手を取って言った。
「呼びかけても返事がなかったから、兄さんが消えてしまったのかと思いました」ナターリャは怯えを引きずり、声を震わしながら言った。そして、自分の手を握ってくれているイヴァンの大きな手に接吻した。
「……今から自警団に参加するんだ」イヴァンはナターリャの頭を見つめながら言った。
「え? 何ですって?」
「仕事があるんだ。しばらく朝まで戻らないから、ナターリャは地下で大人しくしているんだよ」
 そう言ってイヴァンはナターリャの手を振り払う。
「えっ、兄さん! 兄さん! 待って、どこへっ、私を一人おいて、どこへ行くの!?」ナターリャはすっかり動転して叫んだ。「私は目が見えないのに! 私を一人にして、もしあいつらがここへ来たらどうするの!?」
「あいつらは地下まではやってこないよ。ただ空を飛んで、東の山に向かうだけだからね」
「兄さんは?」ナターリャは言った。「兄さんはどこへ?」
「恨みを晴らしに行くんだ」イヴァンの目つきは、妹を労る優しい目つきから、鋭い憎しみのこもった目つきに変わった。
「嫌よ。兄さんが死んじゃうわ」
「死なないよ。銃を撃つんだ。安全なところから。僕は君を愛している。そして、姉さんの事も愛している。だから、行かなくちゃいけない。恨みを……いや、村の人々の恨みを晴らすために。僕を信じて。大丈夫だから。そして、ここは安全だから。僕が行くところも勿論安全だよ」イヴァンはナターリャを抱き締めた。そして、直ぐに放し、急いで階段を駆け上がる。
「兄さん!」
「死にたくなかったら不振な動きはしないでね。ナターリャ」
 フランシスは外で待っていた。彼はイヴァンの家から勝手に拝借した酒を飲んでいた。イヴァンはむっとして、それを奪い返す。
「妹ちゃんは寝たのか」
 イヴァンは頷く。「寝たよ」

 

「アル、時間だよ」
 アル、と呼ばれた眼鏡をかけた金髪の青年は、ピンク色の雲を毟って食べていた。
「あーあ、アルったらまた雲を食べて……太るよ」
 丸眼鏡をかけたやさ顔の青年はうんざりしてため息を吐いた。
「あ、マシュー。この雲おいしいんだぞ!」青年は無邪気に微笑んで雲をほおばった。
「雲は不純物がいっぱい入っているから体に悪いよ」
 マシューは白い積乱雲の上を歩き、アル、すなわちアルフレッドの襟首を捕まえた。「時間がないんだよ。もうすぐ空山の火山囗が開く。僕たち新人の空飛びは明日になる前に火山囗に潜らなくちゃならない。これは新人の僕らに課せられた任務だよ。秒速一万kmで火山口に突っ込み、最深部で化石化し、およそ百年間マグマの熱にあぶられ、翼にマグマの養分を吸収させ、立派な大人の空飛びとなるんだ」マシューは目を輝かせた。「早く大人になりたいね。アル。大人になったら色んな形や色の雲を作れるようになるし、他の大人たちと一緒に偏西風を起こす任務にも携われるんだ」
「俺は雲を食べられればそれでいいぞ」
「君って欲がないね」
 マシューは雲の端まで歩くと、空中に踏み出し、飛び降りた。大きな翼を広げ、下降する。
「アル、早く!」風を浴び、髪や服を揺らしながら、マシューは翼を一仰ぎし、空を優雅に飛んでいく。
 置いて行かれては貯まったものではない。アルフレッドは食べかけの雲のかけらを捨てると、自分も空中に飛び降りた。そして、翼を動かし、マシューの後を追いかける。遙か前方に仲間の空飛びの姿が見えた。彼らも新人であり、向かう場所は同じだった。アルフレッドは途端に競争意識が沸き、スピードを上げ、マシューを追い越し、さらに前方にいた仲間たちをも追い越した。アルフレッドは誰よりも早く飛んだ。いち早くマグマに飛び込んでやることだけ考えて、そして、風を切り破っていく自分の飛び方に酔いしれて、風の妖精になった気分で、わくわくと心が浮き立たせた。他の空飛びも、アルフレッドに負けじと飛ぶスピードを速める。
 空では大きな風が起こっていた。その風は地上にも舞い込み、山の斜面などにぶつかって跳ね返り、渦状の竜巻となった。いくつもの竜巻が、地上の街を襲った。そして、空飛びたちが猛烈な勢いで飛んでいった時に起こした鋭い風が、木や、街の建物、はてや動物の体を切り裂いて傷つけた。のんきに空を飛んでいるだけの空飛びたちには、地上がどうなっているかなんてわからないし、興味もなかった。地上には人間が居た。一人の老人は銃を空に構えた。彼は去年、空飛びが起こした風で、妻を亡くした。彼は空飛びを恨んでいた。こうして、風を起こしながら空を黒く埋め尽くす集団を前に妻との楽しかった思い出を思い出し、老人は涙が止まらなかった。老人は涙をしわくちゃの手で拭い、狙いを定める。だが、狙いなどというものを定めるのは実に困難であった。空飛び族はとんでもない早さで移動するのだ。感でやるしかない。老人は適当に狙いを付け、引き金を引いた。銃声が鳴った。だが、銃弾は命中しなかった。その証拠に、空飛びの叫び声もしなければ、奴らの一匹が落ちてくる気配もない。もう一度銃を撃とうとしたその時、老人の体はひときわ強い風で吹き飛び、ごつごつとした岩に叩きつけられた。老人は鋭く尖った岩の角に頭を打ちつけ、割れた頭蓋骨から脳味噌を飛び散らせて死んでしまった。

 

 イヴァンとフランシスは、岩と岩が窮屈に重なり合った崖の僅かな隙間に挟まるようにして、身を置いていた。ここなら、どんなに強い風が吹いても、岩が盾になってくれる。小高い山の上だった。街にいるよりも、空が近くに見える。山を登るのに時間を費やし、日が殆ど暮れていた。
 耳の奥で風のうなり声が聞こえる。巨人がもがき苦しんでいるような恐ろしい音だった。イヴァンは遠くに目を凝らす。空飛びの群が見えた。こちらに向かってくる。イヴァンは興奮して手が震えた。ざわりと胸騒ぎがし、体の筋肉が緊張する。イヴァンは大きな空気の固まりを飲み込み、自分を落ち着かせた。風はますます強くなり、薄目でなければ目を開けていられなくなった。風に斬られた木や、動物の死骸が中を舞う。
「来たぞ! イヴァン!」フランシスが叫び、自分の銃を空へ構える。
 イヴァンも慌てて銃口を空へ向けた。
 一瞬、息が出来なくなるほどの強い風が吹く。銃が吹き飛んでしまわないように、しっかりと銃の枝を握る。イヴァンは安全装置を外し、スコープを覗いた。しかし、見えるのは、あっという間に通り過ぎていく黒い影だけで、スコープを覗くなど無意味だと早々に悟る。イヴァンは顔を上げる。そうこうしているうちに、フランシスが第一発目を空に撃った。フランシスの二発目の銃声が聞こえる前に、イヴァンも空に向かって引き金を引いた。
 上空はひしめき合う空飛びの群で真っ黒だった。風が吹き荒れ、ゴミや石が舞い、たびたびイヴァン達の体に石がぶつかってきた。この風の勢いは、イヴァン達に苦戦をもたらした。風圧が強すぎて、息を吸おうにも、枕を鼻と口に押し当てられたみたいになって息が出来ないのだ。苦しい。イヴァンは顔を顰める。その時、横から銃が風に浚われていった。フランシスの銃だった。イヴァンは驚き、友人を振り返る。フランシスは岩肌に体を横たえ、目を閉じていた。ぴくりとも動かない。
「フランシス君!」とイヴァンはぎょっとして心の中で叫んだ。ひやりと胸に冷たい物が流れ込んだ。彼は死んだのだろうか。ばくばく、と激しく心臓が鳴る。死んだ……? 死を意識すると、頭がぐらりと傾ぐようだった。イヴァンはぴくぴくと頬を痙攣させながら、口元に笑みを作った。いや、そんなこと考えるのはよそう。イヴァンは上空をにらみつける。さきほどからまともに息をしていない。苦しい。肺が痛い。イヴァンは銃の引き金を引いた。恨みを、晴らしてやるんだ。ただその事だけを考える。


 穏やかな朝がやってきた。風でなぎ倒された木の上に、小鳥がとまり、毛繕いを始める。朝日が雲の間からこぼれ地上に光を差し、光の恵みを体に浴びようと、動物や人間達が外に出てきた。
 日の光のまぶしさに、気を失っていたフランシスは目を開ける。そして、自分たちがまだ崖の隙間にいるのだと気付くや、空飛びの群が去った後だというのを確認して、相棒のイヴァンをゆすり起こした。
「起きろ、イヴァン」
「……ん?」イヴァンは目を開けた。そして、目を開けているフランシスの姿を目の前に見て、彼が生きていたのだと心から安心した。
「フランシス君……」
「朝になった」とフランシスは憔悴しきった顔で言った。そして空のかなたを見上げる。「あいつらはもういない」
 イヴァンは苦虫を噛み潰したような顔をした。自分が寝ている間に事が終わったのだ。
「一匹も殺せなかったな」
「次があるよ」イヴァンは片手に抱いた銃を睨みつける。
 イヴァンはフランシスと山を降った。そして、途中で別れ、イヴァンは妹の待つ家に帰った。
 ナターリャは兄が無事に帰ってきたことに大変喜び、うれし泣きをし、歓声すらあげた。
「兄さんが帰ってきてくれた……! 私、兄さんが居ない間ずっと嫌なことを考えていたんです。姉さんの姿がずっと頭にちらついていました。兄さんもあんな風になるんじゃないかって不安で怖くて、ああ、でも、兄さんは違いましたね」
「うん」
「やっぱり男の人はお強いのですね」ナターリャは神に祈るみたいに胸の前で両手を組み合わせて、頬を染め、惚れ惚れとした様子でイヴァンに寄りかかりながら言った。
「それで、兄さん。復習は果たせましたの?」
 イヴァンは顔に笑みを作ったまま何も答えない。笑っているように見えるが、その奥でイヴァンは凍り付いていた。
「兄さん?」
「パンが、家にもうないんだ。買ってくるよ」イヴァンはわざと明るい声を出して言うと、玄関に向かって逃げるように歩いていく。
「私も行きますわ」慌ててナターリャが兄の足音を追う。
「いいよ。ナターリャ。君はここで留守番をしていて」イヴァンはついてこようとするナターリャを腕で押しのける。ナターリャは傷ついた顔をした。
「待っていてよ。すぐ戻るんだから」苛つきを声から滲ませ、強めの口調で言うと、ナターリャは大人しくなった。
 イヴァンは家を出た。せめて一匹でも打ち落とせていたら違った気分であったろう。森の中をひたすらに歩いて、昨夜のことを考える。乱暴に土を蹴り歩く。道を歩くさなか、イヴァンは手首からちぎれた人間の手を草むらに見つけた。断面から黄色い脂肪と、桃色のぶつぶつとしたものが見えている。あまりのおぞましさに吐き気がし、歯を食いしばってこみ上げてくるものを耐える。人というのはなぜこんなにも無力で、脆いのだろう。肌は柔らかくて、爪を立てればすぐに傷が付く。人間がもっと頑丈にできていたら、巨大な力を持っていたなら……。
 風に乗ってきた血のにおいがイヴァンの鼻をかすめる。鉄臭いにおいだ。近くに手首のない大きな死体があるのだろう。ただの興味から、イヴァンは死体を探した。ブナの木が密集し、濃い影になった所から、うめき声が聞こえてきた。イヴァンは驚いた。死体ではない。生きている人だ。だが、声の調子から、大怪我を負っている事は確実であろう。姿はイヴァンが立っているところからは見えなかったので、その方に向かってさらに歩いて行った。
 そして、イヴァンは見つけたのだ。
 柔らかそうな白い肌に整った顔をしていた。麦のような金色の髪だ。眼鏡をかけている。茶色い、ジャケットを羽織り、その下に、軍服のようなカーキー色の服を着ていた。両手には黒いグローブをはめ、革靴を履いている。五体満足である。あの手首の持ち主ではない。それに、信じられないが、彼の背中には、青い脈の通った透明の羽が生えていた。彼の片翼は折れ、半分ちぎれかけている。その上左足に怪我をしているらしく、ズボンに真っ赤な血がにじんでいる。彼は熱があるのか顔を赤くし、荒く息をしていた。
「君、なに……?」イヴァンは呆然として言った。見かけは人間だが、その羽の存在は、人間にはありえないものであった。作り物だろうか。いや、そうではない。本物である。イヴァンは確信した。よくみれば、この人間も、巧妙に人間を装っているが、どこか人間らしくない物を感じた。まず、彼は人間にしては美しすぎた。気を抜くと、つい彼を愛したくなってたまらなくなる。どうしてそんな気持ちになるのだろう。相手は男で自分も男なのに、不思議だ。それに彼の纏う雰囲気が、ただ者ではない感じだった。冷たい物や、悪い物をいっさい感じず、暖かく、そして、儚い感じだった。
「君は……人間じゃないの……?」
 イヴァンの問いかけに、怪我負い人は何も答えなかった。ただ、苦しそうに息をする。
「あ……」イヴァンは気付いてしまった。「悪魔? 昨日の夜、空を飛んでいた?」
 怪我負い人は目を開けた。そして顔を動かし、イヴァンを見つめた。透明度の高い青い瞳だ。イヴァンはどき、と胸を射抜かれた気がした。だが、イヴァンは、惑わされぬと言いたげに首を振る。
「あはは……その羽は本物なのかな? 君は空を飛べるの?」恐怖を感じているのか、イヴァンの声は震えていた。
 怪我負い人は厳粛に頷く。
 イヴァンはさっと顔を青くした。
「でも、信じられないな。君は人間にしか見えない。背中に変な物はついているけど」イヴァンは怪我負い人に近づいた。そして、折れていない方の羽を掴むと、思いっ切り引っ張った。
「痛いぞっ!」怪我負い人はイヴァンの体を突き飛ばす。
 イヴァンは無様に地面に転げた。しかし、かなり動揺していた。奇妙な感触だった。骨っぽい節の上に、つるつるとした膜が張っていた。イヴァンは目を大きく見開き、怪我負い人の前に立った。怪我負い人は体を小刻みに震わし、怯えている。
「本物だ……っ!」イヴァンは病的な笑みを浮かべて叫んだ。そして、もう一度、怪我負い人の羽を掴むと、彼の背中から力任せに、それを引きちぎった。怪我負い人は叫び、血が吹き出た。イヴァンは背中の破れた服の切れ目から、羽が繋がっていた箇所の断面を覗いた。皮膚が破れ、肉と、それに埋まった白い骨が見えた。絶えず血が吹き出ている。イヴァンの頭はカッと燃えるように熱くなった。
「ああ、わかったよ。君は昨日の黒い群の中の一人だったんだね。そして、君の足の怪我はたぶん、僕か、フランシス君が与えたものだろうね」イヴァンは軽蔑したように、だけど、どこか嬉しそうに言った。全てが合点したような気分だった。
「もう一つの羽も折ってあげるよ」イヴァンはもうすでに千切れかけている片方の羽を掴んだ。死んだ姉の顔が頭にちらつく。
 傷ついた羽を触られた痛みに、怪我負い人は苦痛に顔をゆがませた。荒く息をし、震えながらイヴァンの腕を掴んだ。ぎりぎりと握る手に力を加えていく。イヴァンは抵抗をするこの怪我負い人が気にくわなかった。腹を立て、怪我負い人の背中の傷をつま先でえぐった。
「あうっ!」
 彼の抵抗が緩んだ隙に、イヴァンは羽をへし折った。怪我負い人は瀕死でうずくまった。イヴァンは痛みに苦しむ彼の姿を見て、興奮し、心の重みがすっかりなくなるような気分を覚えた。
「街の皆は君たちのことを嫌っている。勿論僕も嫌いだよ。姉さんを殺されたんだ。町の人がいっぱい死んだ。君たちのせいで!」
 イヴァンはこの美しい青年の黄金色の髪を掴むと、彼の顔を上向かせた。一瞬、この青年の美しさに目を奪われ、胸がどきどきした。真っ白な肌だ。柔らかそうだ。手を滑らせれば、きっと吸い付くような感触を味わえる。なんて形良く、赤い唇だろう。むしゃぶり味わい舐め回したい。自分の口で、彼の唇の形を確かめたい。どんな具合か、はんで確かめたい。今自分の思考を支配した考えに、イヴァンはぞっとした。何を考えているんだ。姉さんの復讐を果たさなくてはならないのに。気が付くと、イヴァンは目の前の美しい青年を裸に剥いていた。自分のこの手がやったしだいである。背中におぞましい悪寒を感じた。
 裸の彼は背中に傷を二つこさえ、左足の太股に穴をあけ、そこから吹き出した血は、乾いて、黒く、かぴかぴになっている。痛々しい、だが、実に官能的だった。欲情的である。厭らしく、淫らだ。病的で、弱さを感じる。
 イヴァンは笑いの発作を起こした。自分の身にひしひしと伝わる奇妙な感動が、面白可笑しく思える。裸に剥いてしまったのなら、やることは一つしかない。
「これは、罰だよ……」イヴァンは可哀想な物を見る目で青年を見つめた。その言葉は、自分がこれからしうる行動を擁護していた。彼を見、彼の前に立つこと、それは実に腹立たしい事だった。腹の底に小さな虫が足掻いて胃壁を髪の毛のように細い足で破ろうとしている。そんな不快な気分が、イヴァンを苦しめた。そして、イヴァンは青年の体を組み敷いた。虐めたかった。苦しめたかった。美しい青年を前に心から残虐な気持ちであった。イヴァンは自分の物を引っ張り出し、三時間にわたってこの哀れな人間でない青年の尻壺を犯した。不思議なことに羽があった事以外では、人間の男となんら変わらない体のつくりをしている。イヴァンは彼の性壺に零れ汁を放つと、狭い入り口から物を引き抜き、ズボンの中にしまった。自分が放った物が、彼の性壺から垂れるのを確認して、何とも言われぬ気持ちになった。
 イヴァンに傷つけられた青年はうずくまり、震えている。肩を揺らし、泣いていた。そんなに怖がって……。イヴァンは哀れみ、同情した。
「君は報いを受けたんだ」イヴァンは言った。「だけど、まだ不十分だ。もっと報いを受けて貰わなくちゃ」イヴァンは、はははと笑った。自分の中に、狂気の気配を感じた。
 青年は逃げをうって、地面を這いずった。だが、すぐにイヴァンに捕らえられた。嫌がって暴れる青年の頬を、イヴァンは何度も打った。イヴァンは気分が良かった。胸がすかっとした。手のひらに収まるぐらいの大きな小振りな岩を掴むと、イヴァンはそれで青年の頭を思いっきり殴った。一瞬、痛みに顔をゆがませた美しい青年は、すぐに安楽な顔になって、気を失ってしまった。
 イヴァンは体中を戦慄かせた。あっとか、うっとか、叫び、突然笑い出したり、苦しそうな顔をしたりした。そして、立っているのに疲れて、木の幹に寄り添って地べたにしゃがんで、あれこれ考えた。
 日が落ちてきた頃、イヴァンはようやく考えがまとまった。未だ気を失ったままの美しい青年を肩に担いで、イヴァンは家に帰ったのだ。

 家に帰ると、イヴァンはナターリャを近づけさせなかった。ナターリャを居間に置いたままにして、自分は地下に降りて閉じこもった。その間、イヴァンは青年の怪我を丁寧に手当し、乾いた血やらで汚れた青年の体を塗れタオルで清めてやり、仕上げに、逃げられないように青年の体を柱に縛り付け、口に手ぬぐいを噛ませて、頭の後ろで縛った。
「兄さん、どうしたんですか? パンは買ってきたの?」ナターリャが地下の入り口のドアを控えめに叩く。ドアはイヴァンが内側から鍵をかけて塞いでいるので、彼女が入ってくることはない。
「ああ。買ってきたよ。ナターリャ。でも、今、ちょっと忙しいから、後にしてくれるかな」
「……わかりました」ナターリャは引き下がった。
 イヴァンはふと口元に笑みを浮かべた。
「起きなよ」
 頭を二、三度叩いてやると、青年は目を覚ました。彼はイヴァンの姿を目に留めるや、怯えたように瞳を揺らした。何か叫ぼうとしたようだが、猿ぐつわが邪魔で、言葉にならない。
「うん。わかるよ。怒っているんだね。でも、僕はもっと怒っているよ。君を殺してしまいたいくらいだ。だけど、そんなことはしない。だって、殺したら、それで終わりじゃない?」イヴァンは目を細める。「それじゃあ、面白くないでしょ」
 イヴァンは言った。
「僕は君を痛めつけたいんだ。死なない程度に。姉さんを亡くし、妹を傷つけられたあの日から、ずっと苦しんできた。その分、君にも同じだけ苦しみを味わって貰いたいんだよ。難しいことは何もない。君は大人しく僕に扱われていれば良い」
 イヴァンは青年の両足を掴んで、割り開いた。白い太股は適度に肉が付いていて柔らかい。女の脚とまではいかないが、十分に揉みがいがある。
「君の中は具合が良くて、病みつきになるよ」
 クッと可笑しそうに微笑み、イヴァンは自分のものを青年の尻壺に入れた。全部を納めると、は……、と息を吐き、しばしの休憩をとり、それから律動を開始した。
 目の前の青年が嫌がる素振りを見せると、イヴァンは興奮した。体中に熱がたぎり、頭の中の思考が嵐のように荒れ狂い、理性が消え去ってしまう。僅かに残った理性が、ただ、相手を殺さないように……とだけ助言する。さんざん痛めつけて満足し、しばらく風に当たってから、はっと我に返って、思い出したようにまた痛めつける。そうやって苦しめる日々が続いたが、ある日、イヴァンは、自分の心に、青年に対して今までとはまるで別の感情が湧き始めているのに気付いてしまった。すなわち、その感情とは愛着であった。体を結ぶごとに、イヴァンはこの青年の柔肌に溺れ、心を満たした。気持ちがよかった。暖かいのだ。殴りも蹴りもせず、一日中ただ腕に裸の青年を抱いて寝ているだけの日もあった。その次の日は、前日の自分の行動を否定するように思いっきり青年を酷く扱ってやるのだが。
 ついに、ある日、イヴァンは青年にキスをしてしまった。青年が余りに可愛い顔をしていたからだ。イヴァンはそれをやった自分に驚いた。頭に姉や、妹の顔が浮かび、後悔の念が湧く。自分を誘惑した、と相手を責めることも出来た。だがそうはしなかった。イヴァンは自分の気持ちをしっかりと正面から受け止め、理解する努力をした。そうするぐらいの知性は生まれつき持ち合わせていたのだ。
「世界中の誰よりも愚かな人間が居るとしたら、僕のことだね」
 イヴァンは肩を落とし、呟いた。敵に対し、愛情を抱くなんて。
 その日のうちに、イヴァンは青年を銃で撃ち殺してしまった。

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プロフィール

HN:
capla
性別:
女性
自己紹介:
アメリカと呼ぶより、アルフレッドと呼ぶのが好き。
自分の書く作品が下手糞すぎて泣けてきまして、恥ずかしさから作品倉庫なる秘密基地を作成しました。ぱちぱち。ホームページは難しくて作れず、ブログです。しかし、ブログもなかなか難しい。半日も費やしてしまいました。(汗)

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