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The blink of night.

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The blink of night.

 アルフレッドは、姿鏡の前に立って、身なりを整えている。青いネクタイをしっかり首にしめ、スーツの上着を羽織る。髪の毛が変によれていないかとか気にしながら、アルフレッドは、手で髪を撫ぜ付け、兄の香水を体に降った。薔薇の香りが、体にまとわりつく。アルフレッドは、こういうしゃれた物を自分で買う事はしない。そういう、身だしなみのあれこれは、全て、兄のアーサーが買っている。髪を梳かす櫛だってそうだ。だから、アルフレッドは、わざわざ自分んでそれらのものを用意しなくてもよかった。
 ドアがノックされる。
「アルフレッド、支度は出来たか」
「ああ、OKさ」
 兄のアーサーは、灰色のスーツをびしっと着こなし、アルフレッドと同じ薔薇の香りを身体から漂わせていた。
「フランシスの車がもう来ている。急ごう」
 彼はそう言うと、アルフレッドに背を向け、先に行ってしまった。
「待ってくれよ」
アルフレッドは、置いていかれまいと彼の後を追いかける。

 日が沈み、外はすっかり暗くなっていた頃である。家の前に止められた、赤いポルシェの後部座席に、アルフレッドは乗り込み、アーサーは助手席に乗り込んだ。運転席には、波に漂う絹の様な美しい髪を顎下まで伸ばした、長髪の男が乗っていた。彼は、フランシスといって、年は三十才中ごろだった。彼は、いつも、柔らかく微笑み、愛を語ったり、何かとんでもないえげつない破廉恥な言葉を吐いたりする。アルフレッドは、彼の事を顔の良いアホだと認識していた。兄である、アーサーもアルフレッドと同じ考えだった。だが、実際、フランシスという男は、しっかりとした物の考え方をする、素晴らしく真面目な人間だった。
「今夜は、界隈トップのブラギンスキの愚息の快気祝いパーティーだ。そこのお坊ちゃんというのは長年病気をしていてだな、最近病気から回復したというので、パーティーをしようって話になったんだ。快気祝いとだけあって、パーティーに参加するメンバーは、ブラギンスキの息子とどこかしらで顔合わせをした事のある奴しかいない。そんな中で、まったく面識のないアルフレッドを連れて行くというのは心苦しい事なんだ。」
「俺は、パーティーで美味しい物を食べられればそれで良いんだ。構わず連れて行ってくれよ」
「意地の汚い弟には困ったもんだ」アーサーは呆れたように言った。
「まあ、祝う人は多ければ多い方が嬉しいよな」フランシスは長い説教をしようとしたのを途中で取りやめた。
 車は発進し、会場に向かった。
 会場の表は、とても賑やかだった。客の車が、道路にずらりと並び、そこから、ドレスアップした老若男女の紳士淑女が降りてきて、入口の大理石の階段を上って行く。アルフレッド達も、人の波に流されるように、入口に入って行った。会場の廊下には、赤い絨毯が敷かれ、オーケストラの賑やかな店舗の良い音楽が流れていて、入って早々、アルフレッドはこの会場の雰囲気がえらく気に入った。ダンスホールには、数人の客人がダンスに励み、その周りに食事を乗せたテーブルがあって、みな各々に席に着いて、食事をつまんだり、友人や、知り合いとおしゃべりを楽しんでいたりしていた。
「おい、アルフレッド、フライドポテトがあるぞ」アーサーがテーブルの上の山もりのフライドポテトを見つけると、それを指さし、アルフレッドに教えた。アルフレッドは目を輝かせ、さっそく、その美味しい物で腹を満たそうと、突撃した。この為に遣って来たのだ。食べない選択肢はない。アルフレッドが料理に夢中になっている中、アーサーとフランシスは、仕事仲間に遭い、おしゃべりに興じていた。アルフレッドの耳に聞こえてくる仕事の話は、仕事をしていないアルフレッドには関係のない話だった。
 テーブルの上の料理をほとんど食べ尽くしてしまうと、コックが、すぐに新しい料理を作り、また持ってくる。一時間くらい食べている内に、アルフレッドの腹は満たされた。
「アーサー、ちょっと、外の空気を浴びてくるよ」
 たくさん食べたせいで、身体が大量のエネルギーを処理する為、火照って、熱くなり、アルフレッドは夜の風に涼みに行った。給仕に、庭には何処へ行ったら出られるか聞いて、アルフレッドは、教えられた白い扉を開けて、外に出た。
 急に森の中に出たようだった。闇に木々の影が揺れ、ぼんやりとした白い満月が、暗い空の高い所に浮かんでいる。空では真っ黒な雲が渦を巻き、灰色の雲に覆いかぶさり、いまにも月の光を遮ろうとしている。庭を少し歩くと、水のせせらぎの音が聞こえた。池があった。そこに、数匹の鯉が泳いでいる。水面の僅かに浮いた所へ、明かりが灯され、誤って人が池に落ちない目印になていた。近くに、休めるベンチを発見して、アルフレッドは、そこに腰を落ち着けた。身体の体重をベンチに預けると、食べた疲れが引いていくようだった。
 涼しく、心地よい風が皮膚を撫でる。アルフレッドは、ベルトと、ネクタイを緩め、身体の締め付けを楽にした。目を閉じると、夏の昆虫の鈴虫やらの鳴き声が耳に入ってきた。美しい鳴き声は、アルフレッドの脳をリラックスさせた。暫くの間、夏の夜の癒しとやらに浸っていると、突然誰かに、ライトの強烈な光を身体に浴びせられた。アルフレッドは光から逃げる様に手をかざした。
「何をするんだい! やめてくれよ。眩しいじゃないか」アルフレッドは、怒って叫んだ。目を突き刺すような強烈な光には耐えられない。今はやりのLEDライトとかいうやつだろうか。眩しすぎて目を開けていられない。
「注意してあげようと思って」その人物は、決して女とは思えない様な、低い、男の声で言った。「そのベンチ、虫がたかっているんだ」
「虫?」
「ナメクジ」
 アルフレッドは悲鳴をあげて飛び上がった。ズボンを澤っると、なるほど、濡れた物に触れたみたいに、所々湿っていた。尻でナメクジを押しつぶしていたのだろう。
「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
 彼はライトを消して、庭から去ろうとする。だが、彼は会場に戻るわけではなく、建物の周りを歩いて、その建物の後ろの奥の方に進んで、姿を消した。
 奥には何があるのだろう、料理を食べる楽しみ終えて、暇を持て余していたアルフレッドは、先程の彼が、いったい、どこに行ってしまったのか、好奇心が高まって、後を追いかけてみようと思い立った。足音を潜めながら、アルフレッドは、彼の後を追う。
 少し行くと、屋敷と高い塀に挟まれて、月の明かりすら届かない、細い道に入った。黒い闇は視界を塞ぎ、アルフレッドは、まるで、目を閉じながら歩いているようで、本当に何も見えなかった。鈴虫の鳴き声を聞きながら、ただ、まっすぐ、歩いていると、アルフレッドは何かにぶつかった。すると、パッと目の前で明かりが灯った。
「君……。なんで着いて来たの?」
 明かりが灯ったのは、先程の彼が、持っていた懐中電灯を点けたからだった。アルフレッドがぶつかったのは、彼の大きな背中だった。
「あ、ごめんよ。君が何処に行くのか気になって……」
「ストーカーかな?」
「そんなんじゃないよ。ただ、暇でどうしようもなかっただけだぞ」
「好奇心?」
「そうだぞ」
 彼は疲れた様にため息を吐いた。
「迷惑な好奇心だね。まあ、別に着いて来ても良いけどね」
「いいのかい? ありがとう!」
 彼は、アルフレッドが通るのに危なくないように、足元を懐中電灯で照らしていてくれた。アルフレッドが居なかったら、彼はきっと、照らさないままで歩いていたはずだ。
「君、名前はなんていうんだい? 俺はアルフレッドっていうんだ」アルフレッドは、彼の後姿を見ながら尋ねた。狭い道を通るのに、二人は、縦に一列になって歩かねばならなかった。
「イヴァン」と彼は一言言った。
「イヴァン」とアルフレッドは繰り返した。
 少し歩いて、イヴァンは立ち止まった。
「明かり消して良い?」
 アルフレッドはうなづいた。
「いいよ」
 明かりが消えると、再び闇が落ちた、
「また少し進むよ。足もとに気をつけて」
 イヴァンが歩きだした音がした。アルフレッドも後を追おうとして、急いだ。だけど、勢い余って、足を土の上の芝生に滑らせ、前に倒れてしまった。ちょうどイヴァンの背中に手をついて、体当たりする形になった。イヴァンは前のめりに倒れそうになったのを、足を踏ん張って踏みとどまった。
「ご、ごめんよ! 足が滑っちゃって!」アルフレッドは慌てて、イヴァンから身体を離した。
 イヴァンは、懐中電灯の明かりを灯し、アルフレッドの体を照らした。
「手を出して」とイヴァンは言った。
 アルフレッドは何も考えず、右手を差し出した。イヴァンはアルフレッドの右手を左手で掴むと、また明かりを消した。
「手をつなごう。危なくないように。ここから先は暗い方が良いんだ」
「わかったぞ」
 イヴァンはしっかりとした足取りで、前に進んで行った。アルフレッドは、イヴァンに手を引かれているので、ただ着いて行けば良かった。やがて、暗い闇だけだった士会に、薄ぼんやりとした緑色の明かりが見える様になった。それは、墓場を浮遊する霊魂のような小さな塊の群れで、緑色の霊魂は宙をなめらかに飛んでいた。
「ホタルだよ。あそこに井戸があってね」
 イヴァンはそう言って、アルフレッドの手を引っ張り、どんどん進んでいく。緑色の光の中央にやってくると、イヴァンはアルフレッドの手を動かして、何か、ざらざらとした石の様な肌触りのものに触れさせた。
「わかる? 井戸」とイヴァンは楽しそうに言った。
「中を覗いてみなよ」
 アルフレッドは、井戸の淵に手をついて、中を覗いた。
「わあ……」
 アルフレッドは息をのんだ。そこには宇宙の星々の世界、銀河が広がっていたのだ。きらめく緑色の光は、光を強くしたり、ときどき光を小さくして、暗闇に溶け、再び明かりを灯す。たくさんの光が、ゆっくりとした呼吸の様な点滅を繰り返している。こんなにも美しく、吸い込まれるような光の演出は見たことがない。
「綺麗だ」
「そうでしょ?」イヴァンはくすくすと楽しそうに笑った。
 ハー、とイヴァンは大きなため息を吐く。
「ねえ、そろそろ帰ったほうがいいよ。僕の目的がわかって、君の好奇心は満たされたんだ。アルフレッド君、みんなのいる所に戻った方がいい」
 アルフレッドはしかめ面をした。
「行ったって、する事なんて何もないさ。俺は邪魔者なんだ。ねえイヴァン、もう少しだけ、ここに居させてくれよ」
「邪魔者……?」
 アルフレッドは、イヴァンに自分の身の内を話してやった。仕事に就いていなくて、兄に養われている事、美味しい料理が食べたいだけで、兄が招待されたパーティーに無理やりついて来た事。このパーティーには兄の知り合いは居ても、自分の知り合いはまったく居ない事。無職というのは孤独なんだと、アルフレッドは語った。
「そうなの……大変だねぇ」イヴァンは心の底から同情し、そう言った。
「でもね、アルフレッド君。君はここに居ちゃいけないんだよ」
「どうしてだい?」
「だって、君がいたら、僕、仕事が出来ないもの」
 イヴァンが肩を竦めるのがわかった。
 アルフレッドは、自分がイヴァンの邪魔になっていたなんて、言われるまで気付かなかったので、急に申し訳なさが湧いてきた。
「ごめん。君の邪魔をしていたなんて気付かなかった、俺……戻るぞ」
「ふふふ……そうしてくれた方が、良いかな」イヴァンは穏やかに笑った。
 さっそく、アルフレッドは来た道を戻り始めた。
「あ、待って」
 せっかく戻ろうとしたのに、イヴァンがアルフレッドを呼び止める。アルフレッドは立ち止って振り返った。イヴァンはアルフレッドに駆け寄り、アルフレッドの手に、懐中電灯を握らせると、言った。
「暗いと、何も見えないでしょ。コレ使ってよ。返さなくても良いんだよ。僕、もう使わないやつだから」
「え、いいのかい?」
「うん。もういらないんだ。貰ってくれると僕も助かるし。捨てるのも勿体ないじゃない」
「ありがとう」
 アルフレッドは、それで帰る道を照らした。LEDライトの明かりは、酷く強烈で、光に当てられた草が、白く見えるほどだ。
「じゃあね、イヴァン。ありがとう、さよならなんだぞ」
「バイバイ、アルフレッド君」

 会場に戻ると、アーサーとフランシスは、酒を飲んで酔っ払っていた。
「おい、アルフレッド、何処へ行っていたんだよ?」
「暇すぎて散歩に行っていたんだぞ」
「そうかよ。これから例の愚息が登場して、スピーチらしいぜ」
 だが、いくら待っても主役は現れず、主催者の父親が、マイクを取った。
「まことに申し訳なく、勝手ながら、息子のイヴァンの体調が思わしくないので、イヴァンのスピーチは取り消しとさせて頂きます。代わりに、すてきなオーケストラ団体の音楽を耳に入れ、ダンスに興じるなり、楽しんで頂きたい」
 美しいメロディが始まる。
「今、イヴァンって言ったかい?」アルフレッドはアーサーに身を乗り出して尋ねた。
「言ったな」
「イヴァンっていう人に、さっき会ったんだ。一緒にホタルを見た」
「なんだよお? 坊ちゃん元気なんじゃん。こりゃあ、スピーチはさぼりだなあ」フランシスが赤ワインを一気飲みしながら、面白がって笑った。

 ブラギンスキ家から電報が届いたのは、パーティーから二日後の昼どきだった。外はしとしとと、それほど激しくもない静かな雨が降っていた。
 送られた電報を読んで、アーサーは驚いて、叫び、アルフレッドを呼んだ。
「イヴァンが亡くなったらしい」
 その言葉を聞いた瞬間、アルフレッドは、がん、と頭を殴られたような衝撃を受けた。
 彼は井戸に落ちて亡くなった、という話しだった。「もともと心の病気だった。たぶん自殺だ」とアーサーは語った。


 君と見たあの美しい景色が、頭の中で何度も弾けていた。
 温かい君の手を握り、一緒に歩いた、あの日の冒険を思い出す。

 


 (完)

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プロフィール

HN:
capla
性別:
女性
自己紹介:
アメリカと呼ぶより、アルフレッドと呼ぶのが好き。
自分の書く作品が下手糞すぎて泣けてきまして、恥ずかしさから作品倉庫なる秘密基地を作成しました。ぱちぱち。ホームページは難しくて作れず、ブログです。しかし、ブログもなかなか難しい。半日も費やしてしまいました。(汗)

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