しとしとと白い雪が落ちて来ていた。殆んど水の、濡れ雪で、上着に落ちた雪の結晶は、一瞬にして水滴になった。
「寒いんだぞ……」
コートのフードを頭にスッポリ被ったアルフレッドは、街灯の下に立たづんでいた。コートは、柔らかい布の生地で出来ており、ずっしりと重く、そして、冷たくなっていた。
「ふぅ」
アルフレッドは息を吐いて、天を見上げた。まだ、昼間だったが、辺りは暗い。その原因は、あの空に浮かんで、太陽を隠している真っ黒で分厚い雲のせいだ。
指はかじかんでいる。寒くて、耳が痛い。早く、温かい所へ行きたい。
だけど、
アルフレッドは待っているのだ。だから、この場から動けないでいる。
「アルフレッド君」
聞こえてきた声に振り返れば、お待ちかねの相手が小走りでこちらにやってくる所だった。
彼の姿を見つけた時、アルフレッドは心から安堵した。これで、温かい所へ行けるぞ。
「遅いぞ。イヴァン」アルフレッドは口を尖らせながら彼の名前を呼んだ。
「ごめんね。仕事が長引いちゃって」
イヴァンはにこにこと目を細めて笑った。イヴァンはアルフレッドの傍まで来ると、アルフレッドのコートがびちょびちょに濡れている事に気がついた。
「大丈夫? 濡れてるよ」
「君が早く来なかったから、こんなに濡れちゃったんだぞ……っくしゅんっ!」
くしゃみの後、ぶるりとアルフレッドの体が震える。
「風邪、ひいちゃったかな?」
イヴァンはアルフレッドの体を、自分の体に引き寄せた。まるで、自分の体温を移そうとしているかのように。
ぱふ、とイヴァンの胸に頬をくっつけ、イヴァンの逞しい腕に背中を抱きしめられて、アルフレッドはちょっと温かくなった。
ああ、誰かに抱きしめられるって、どうしてこんなに幸せな気分になるのだろう。それも、相手が好きな人だと特別、胸がぎゅっと締めつけられたようになって、体中がむずむずと痺れてくる。この痺れは、アルフレッドにとって、とても気持ちが良いものだ。
もっと強く抱きしめて欲しい。アルフレッドはイヴァンの胸に頬をすり、と擦りつけた。
「アルフレッド君……」
イヴァンは、可愛く甘えてくるアルフレッドの姿を見て、ごくりと唾を飲んだ。なんて可愛いのだろう。動物の赤ちゃんみたいだ、とイヴァンは思った。守りたい。守ってあげたくなる。イヴァンは自分の全身からぞわぞわと何かが湧き出てくる心地を感じた。アルフレッドの仕草が可愛くて可愛くてどうしようもなく愛しくて体が震えてくる。自分の持っている全力の愛で、アルフレッドをくるんでしまいたい。
「ねえ、アルフレッド君。この後、食事に行く予定だったけど、君、濡れているし、風邪も引いているみたいだし……僕の家に来て、休んだ方が良いと思うんだ。僕の家に来れば、服も乾かせるし。休むのにちょうどいい、温かいベッドもある」
イヴァンはベッドという言葉を強調して言った。
「ああ、うん……。じゃあ、君の家に行こうかな」
アルフレッドは、イヴァンの言う意味を理解し、ほんのり頬を赤く染めて言った。
イヴァンはクスリと笑う。
「うん、おいで」
二人は手を繋ぎ、歩き出した。
ああ早く君を愛したいよ。